夏休みで接点がない。
付き合い始めたころは毎日がドキドキして友達から「うわぁピンクな感じ止めてよー!」と言われていたというのに。この頃のすれ違い振りは、別れ間近の恋人のよう。
(西田先輩……会いたいなあ)
半日経っても鳴らない携帯電話に、有里の胸には不安な気持ちが押し寄せる。
気分を紛らわそうと音楽を聞くが、ちょうどそれが〝失恋しても貴方を忘れられない〟という感じの内容の歌で、さらにテンションが下がった。
(……失恋なんてしないもん……)
夜、やっとの事で西田先輩からの電話で携帯電話が鳴る。眠りそうになっていた有里は、光だけを頼りに電話を取った。
「……もしもし」
「有里、俺だけど」
久しぶりに聞く懐かしくて大好きな声。有里の感じていた眠気は、耳許に感じた声によって一瞬で吹き飛んだ。ドキドキと言うより、バクバクと鳴る心臓が恨めしい。
「あ、ごめん。寝てた?」
「ううん! ちょっと眠かったけど、寝てないよ」
「そっか。……つか、朝のメールなんだけど、返信遅れてごめん。塾だった」