「落ちるわけねえだろ」


いつの間にか隣に座っていた西田先輩が、有里の身体を引き寄せた。背中に手を回された有里は、西田先輩の胸に頭を預け、同じく手を回す。


――風で冷たくなった腕が暖かかった。


「そんな簡単に落ちたら営業してねえよ」


「うん……」


「大丈夫」


揺れが少し収まった今なら、冷静に考えることが出来た。確かに、街の中心にある観覧車がそう簡単に落ちるわけがない。


ぽんぽんと子供をあやすように軽く叩かれる背中に安心して、有里は回した腕に力を込める。ふいに、頭の上でくすくすと低く笑う声がした。


「泣き虫」


「泣いてないよ」


「なら顔上げろ」


珍しい西田先輩の命令口調に顔を上げると、そのままキスをされる。そっと上唇、下唇を順番に触れられて、すぐに離れていく。


――拍子抜け。


眉を下げた有里を、悪戯な笑みを浮かべながら様子を窺うように覗き込む西田先輩。今度は悪戯なんかじゃない、意地悪な表情をしていた。


「花火まだか。もうすぐ頂上だってのに」