「浴衣か……あったかな」


「ううん、無かったら私服で大丈夫!」


困ったように苦笑いを浮かべる西田先輩に有里は優しく笑って首を振った。


どうやら、浴衣の件は西田先輩の顔を見る限り望みは薄そうだ。新たに買うなど、そのようなことに気を遣って欲しくない有里。勿論、西田先輩が買いたいなら別だ。


元々〝祭りは浴衣〟というこだわりを持っている訳ではない。西田先輩と街の一大イベントを一緒に過ごしたいというだけ――なんて。


「うーん、ごめん。やっぱねえかも……」


「そっかあ。
――じゃあ……浴衣は来年にしよ?」


恥ずかしさを抑えて有里は言ったが、言った瞬間からそれを後悔した。


来年、西田先輩は大学進学を果たして、この県にいないかもしれないのに。夏休み、祭りの日に西田先輩が帰ってくる根拠は無い。


それに、その時も付き合っているかどうかは分からない。


でも、そんないつ壊れてしまうかも分からない口約束でもいいから、疑わずに信じていつでも縋れるものが欲しくて。


「うん。……また来年もな」


肩を抱き寄せて頬にキスをする西田先輩。頬を伝って唇の端を越えようとする彼氏を、顔を赤らめて必死に止める彼女。


そんな彼女は、ぞくりと身体が震えた。