「有里、ごめん。帰ろう」


「うん」


並んで歩くたびに横をすり抜けていく他の生徒たち。二人が階段を下りているとき、階段を駆け下りる野球部の生徒が肩に掛けた、重たそうなエナメルバッグと有里が当たりそうになる。


「ほら、危ねえって」


「え? わっ、ごめんなさい!」


バッと壁の方に避け、有里は頭を下げる。


その野球部の生徒は驚いたようだったが「すいません」と同じように返し、時間を気にした素振りを見せて走っていった。


その背中をぼんやりと見送っていると、手に温かいものが触れた。我に返って手を見下ろした瞬間、西田先輩がいつにもまして、ぎゅっと強めに手を握ってくる。


「有里、なんか危なっかしくて怖い」


「そうかなぁ? 言われたことないよ?」


「いや、いっつも隙だらけだし」


わざとらしく、くすくすと耳元で密やかに笑う西田先輩に有里は俯く。きっと、今西田先輩に顔を見られたら〝あれ、顔赤いけどどうした?〟と意地悪なことを言われるだろう。


「ほら、靴。早く履き替えてきて」


「う、うん」


顔色一つ変えることない彼氏にもどかしさを感じる。こうして一緒に帰ってくれることはとても嬉しいのに、どこか物足りなさを感じる気持ちもまたあるのだ。