放課後、西田先輩が教室に来た。


示し合わせて約束をした訳ではないが、いつの間にか、お互いの早くSHRが終わった方が教室に来るようになっている。


目が合うと、西田先輩は小さく笑った。


その笑みで僅かに細められた目、気恥ずかしそうに緩んだ口許に有里の心臓はドクンとうるさく高鳴る。


帰 る ぞ


声は聞こえないが西田先輩の唇はそう動いていた。それを見た有里は、明るい満面の笑みを浮かべて、大きく(うん!)と頷く。


――近くの席で、有里と廊下にいる西田先輩を見てニヤニヤしていた香織は、この際放っておこうと決めた。


挨拶が終わり、友達に「ばいばい!」と言いながら廊下に走る有里。西田先輩はというと、有里の教室から少し離れた場所で、彼の友達と話していた。


僅かに戸惑った有里がゆっくりと歩いて行くと、西田先輩は有里に気付いた。


「あ」と声を出した西田先輩は、「じゃ、俺帰るから」と友達にひらひら手を振り、離れた場所で立ち止まった有里に笑いながら手招きをする。


「うわ。西田お前、一回爆発しろ!」


「はっ、うるせーよアホ」


「ユリちゃん、西田に飽きたら俺と――」


「はいはい、黙れ黙れ」


鼻で意地悪そうに友達を笑う西田先輩だが、ふいに自然な笑顔を浮かべて「じゃあな」と友達に言う。その友達もふざけるのをやめて「おぅ」とぶっきらぼうに手を上げた。