暗い視界。あまりに近すぎる顔に目を瞑ると、唇に触れる柔らかく温かいそれ。


車通りが少ないとはいえ、横を過ぎる車が無い訳ではない。誰かに見られないか――そんなことを思ったかどうか。


心臓が飛び跳ねて顔が熱くなり、胸やお腹辺りがきゅっとしまった感じがした。


『……ほら。行くぞ』


繋がっていた手をくっと引っ張られ、気を抜いていた有里は慌てて『先、先輩……!』と声を上げ、再び道路を歩き出す。


西田先輩の背中を見て、胸がきゅんとしたことを覚えている。これが本当の恋なんだと、甘く嬉しいような――幸せな気持ちだった。





昔――そんなに昔のことではないが――を思い出していた有里は、胸がくすぐったい思いに駆られていた。


だが、それでも有里は勉強を疎かにしたくなかった。寧ろ、西田先輩と付き合っているからこそ、恋愛と勉強を両立して、誰からも文句を言われたくなかったからだ。


授業中は西田先輩のことは考えない。
それが、結局は自分のためになるから。


だから、西田先輩にも、勉強中は自分のことは忘れてほしいと思う。それは寂しくて辛いことだが、邪魔になりたくない。






――西田先輩が県外の大学へ行くとしても、絶対に笑顔で応援したい。