章子が微苦笑をしていると、頭

をなでられた。

「かわいそうになぁ。いつでも

俺が慰めてやるよ章子ちゃん」

健がしなだれるように首に腕を

巻きつけてくる。

そんな事、図体のでかい友人に

されても体が痛いだけだ。

「やめてよねー」

「んだよ、俺の愛が伝わらねぇ

のか?」

「心の小さい愛なんていらない

わよ」

健は子供の様に頬を膨らます。

ああ、見ていて気持ちのいいも

のではないと、章子は失礼きわ

まり無い事を思った。

客観的にみれば、この健もス

ポーツマンらしい引き締まった

四肢に、甘いマスクの持ち主な

のだから、それらの仕草は、可

愛いとかカッコイイとかいう

部類のものであろうが、悲しい

かな、章子と健の間には、友情

以外の何ものも存在していない

のだ。

彼女は首にある腕を振り払う。



「そういえばあゆみちゃんは元

気?」

と、彼の恋人の話を持ち出す。

「まぁな。でもあいつ最近、俺

を他の女に取られるよりは男に

取られたほうがいいなんて言う

んだぜ? 女ってわかんねぇ」

確かに、あの気の強そうな子な

ら冗談でそう言うかもしれない

と、内心で章子は笑った。




だが、章子なら思わない。


大切な人を、男に取られるのも

女に取られるのもいやだ。

自分のものだけにしていたい。



「ま、あゆみにとって俺はその

程度って事なんだろうな。もし

かして取られるなら…ってな」

健は苦笑する。

彼自身、そんな付き合いをして

いる自分に気がついているのだ

ろう。

どこまでも矛盾を改められない

のは、自分も同じだ。