「恋ってのは変って字に似てる

って言うけど似てないよな」

男友だちの言葉に章子は顔をし

かめた。

「むしろさ忘に似てない?」

友人の健はからからと笑ってい

る。

この悪友は、章子が玉砕したこ

とを知っているのだ。

「忘って……心が亡くなるで

しょう? 恋とは似ても似つか

ないじゃない」

「そうか?ある意味、恋って心

が亡くなるだろ。しかもさぁ恋

よりも愛の方が心が小さいし」

確かに文字は凝縮され、心は小

さい。

唇の端をあげて健がそういうと

章子は苦笑した。

電車の中で玉砕を果たしたあの

日から、1ヶ月がたとうとして

いた。

友人の変貌をおかしくおもった

健が「恋煩い?」とおどけて聞

いてきたので、章子は「失恋よ

」とアッサリと打ち明けたのだ

った。




相手が電車で毎朝見ていただけ

だ、ということを話しても、健

は相槌をうってくるだけだった。

今時、電車の中で見ているだけ

の人を想うなど、あまりにも莫

迦げている、と思われるかもし

れないが、この健は、章子の

そういう性格をよく把握してい

た。

そして、その締めくくりが先ほ

どの「恋という字は…」なのだ。