翔の全てに絵理香は夢中だった。

コース料理は間があるからカップルがいろんな話をするのに適している。

絵理香は、はしゃぎ気味に最近はまっている美味しいスイーツ探しや先週、友達と一泊で行った箱根旅行の話をした。
そんな話を翔はとても楽しそうに聞いてくれた。

翔は会社では海外事業部に所属していて、来月は、上司についてアメリカに出張する予定だと言った。

『アメリカ、すごいねー。』

絵理香が感心して言うと、

『絵理香、もし、俺がアメリカ転勤になったら、一緒に来てくれないか?』

翔はデザートのタピオカミルクをスプーンで掬いながら、そう言った。

初めて飲んだ紹興酒でほろ酔いの絵理香は、それが翔のあまりにも早いプロポーズだと気付かないまま、

『うん、行く行く、絶対行く!』
と子どもが遊園地に誘われたように無邪気に応えた。




「…どうして引き取りたいの?」

慌ててカップを元に戻した絵理香は翔に尋ねる。

絵理香の向かいに座っている翔は視線を落とし、自分の持っているコーヒーカップを見つめながら言った。

「あいつ、男が出来たんだよ。」

「そうなんだ。」

「でも、男が子どもが嫌いで、礼央を嫌がってるんだって。」

礼央とは、翔の子どもの名だ。
さらに前妻は子供を施設にいれてもよいか、翔に尋ねてきたらしい。

翔は絵理香のほうを真っ直ぐ向いて言った。

「そんなこと出来ると思う?それなら俺が引き取るわっていったんだけど、絵理香はどうだろう?」