一年半前ー

藤枝絵理香は待ち合わせのチャイニーズレストランで、烏龍茶を飲みながら結城翔を待っていた。

元町のショップで見つけたサーモンピンクのシフォンのワンピースは、絵理香の勝負服だ。
念入りにトリートメントした長いウェーブの髪も艶やかだ。

『フフ…』

携帯をいじりながら、自然に笑みがこぼれそうなる。

大手の電機メーカーに勤務する翔は背が高く、甘い顔立ちのスマートな男で絵理香のピッタリ好みだった。
おまけにすごく優しい。
絵理香より六つ歳上の二十七歳だ。

今日は、二度目のデートだった。

待ち切れない思いで絵理香はブレスレットタイプの腕時計の文字盤を覗き込む。

約束の時間の七時を十分過ぎていた。

やがて、店の自動ドアがあいた気配がして、店員に案内されながら翔が仕事帰りのテーラーコート姿で現れた。

絵理香を見つけると、翔は笑みを浮かべながら、片手を上げて合図した。

『ごめんね。待った?』
『ううん、大丈夫。』

ふいに、翔が絵理香の耳元に顔を近づけ囁いた。

『今日の絵理香、めっちゃくちゃ可愛い』

絵理香は嬉しくなる。こういうことをサラッという男は初めてだった。



ひと月前、翔から誘われた初デートは山下公園から出港するマリンルージュのランチクルーズだった。

美味しい料理を食べたあと、船内のソファーで寛いでいる時、翔は、
『聞いて欲しい話があるんだ。』
と真面目な顔で切り出した。

そして、自分には離婚歴があり、子供一人を前妻が引き取って育てていると告白した。

絵理香は、なんて答えたら良いのかわからなかったけれど、目の前の翔は絵理香にとって王子様のような男だ。

子供は前妻が引き取っているし、養育費は当たりまえだとしても私には関係ない。
絵理香はそう思った。

だから、二回目の中華街でのデートもOKした。