翔が、礼央に赤ちゃんが出来たこと伝えた時、礼央はなんのこと?というように顔をしかめた。

絵理香はドキッした。

「礼央、お兄ちゃんになるんだよ。」

翔が言うと

「えっほんと、赤ちゃん生まれるんだ。」
礼央は顔を輝かせた。

もしかしたら、礼央は嫌がるかもしれない。
そう思っていた絵理香は、ホッと胸を撫で下ろした。

礼央は嬉しそうに言った。
「やった。これでスーパーマリオの二人プレイが出来る。」

「赤ちゃんは、ゲームなんか出来ないよ。」
翔が笑いながら、礼央の頭を撫でて言った。

礼央の反応が心配だったのは、翔も同じで、絵理香には翔が胸を撫で下ろしているのがよくわかった。



新緑の美しい時期になると絵理香のひどい悪阻も治まり、あの体調の悪さが嘘のように快調な安定期に入った。

晩酌のビールを飲みながら翔が
「礼央どう?」と聞いてきた。

翔はいつも絵理香と礼央がうまくやれているか心配していた。

「んー、まあまあかな。お母ちゃんって呼ぶのは自然になってきたよ。」
…それは嘘だ。

「そうなんだ。」
「あともうちょっと仲良くなりたいんだけどね…」

寝ている礼央の寝顔は可愛らしかった。
絵理香は寝ている礼央の頬を撫でるのが好きだった。

「寝てる時は天使だよね…」
絵理香は呟いた。

その頬を最初は怖々と触れていたが、今は愛しく思えるようになった。

絵理香の情は確かに礼央に移っているが、礼央のほうは、結局翔のほうに行ってしまう。

赤ちゃんが生まれるまでに、礼央との距離をもっと縮めたかった。