「だよね、あはは。野球部様には頑張ってもらわなきゃ!ねー神木!」


―――美夏が叫んだ方向に、反射的に振り向いた。


「ん、何」


向けた視線の先には、今日も眠そうに登校してきた神木くんがいた。


ぎゅ。


…また心臓がじんわり痛くなる。


心地よくもなんともない痛み。

むしろ罪悪に近い痛み。


「神木が甲子園行ったら、うちらが楽器持って応援いくから!」

「え?あ…そっか、吹部か」

神木くんは重たそうなエナメルバッグを机にどさっと置いた。


「まぁ、甲子園っつーか、予選から吹きに行くんだけどさ!あは」


頑張ってね!

そう言って、にっこり神木くんに笑いかける美夏。



「ああ。ありがとな」



―――え、なんで。


今、美夏のこと

…すごい嫌だと思ってしまった。


神木くんが、笑ったから?

美夏の笑顔に笑いかけたから?