席を立つ前に、まだにぎやかな教室を見渡す。


……もう、いないみたい。


帰っちゃったんだ。

またねって言えなかったな。










図書室にはすでに何人も人がいて、それぞれ勉強をしていた。


しんと静まり返る、はりつめた空間。

歩くときにする制服のこすれる音でさえおおきく聞こえる。


杏里は日当たりのいいはじっこの席に荷物を置いた。


教材を取り出そうと、かばんの中を見る。



…あ。

 
…数学に、しようかな。





神木くんの顔がうかんだ。


今朝、勉強を教えてもらったこと。

どんな授業よりも、鮮明に思い出せる時間。





…数学にしよう。




ノートと問題集、ふでばこを取り出して、黙々と勉強をはじめた。