「別に…無理なんて」
「その顔がしてるって言ってるの!」
どの顔だ。
窓ガラスにうつる自分の顔をみる。
――確かに浮かない顔…。
「本当に無理はしないで?杏里」
胡桃はどこまでも優しかった。
だから胡桃にだけは打ち明けられた。
うちの小5の記憶。
――――小5、秋。
「ねーねー杏里ちゃん」
「なぁに?」
クラスメートの何人かが杏里の机に集まる。
一人の女の子が口を開く。
「田中くんが杏里のこと好きなんだって!」
「え~なにそれ」
田中くんとは、クラスの男子。
運動神経がよくてサッカーがすごく上手いから、っていう理由だけで女子からひそかに人気があった男子。
その田中くんが杏里の事を好きだと、その女子はいう。