ブラック王子に狙われて①





叩かれる!?

殴られる!??

何する気!!??




怖くて…

恐ろしくて…

目をギュッと瞑った。





すると―――――、


膝の上でギュッと握った手に…

彼の手が優しく重なり…。


思わず、目を開けると。

彼が目の前にしゃがみ込んでいた。




えっ!? 何???




「けど、休み中は会えないと思ってたから。こうして会えるんなら、悪くないな」

「え?」




“悪くないな”……??

どういう意味??









目の前の彼が優しく微笑んだ。


//////////////


なっ、何!?今の笑顔!!

極上王子スマイルじゃなかったよ?

ブラック王子スマイルでもないし。



……スペシャル王子スマイル?



そんな超とびきりの笑顔を見せられたら…

女の子は、みんな…勘違いしちゃうよ。






すると――――――――!!



ゆっくり……ゆっくり………

彼が顔を近づけて来た。




え、えっ……えっ……!?





いつもの有無を言わせずするキスでなく、


振り返りざまにする不意打ちキスでもなく、


優しい表情で…

そっと………唇が重なった。




それも、いつもより……長く。






唇が離れても恥ずかしくて、

どうしていいか分からない。

恥ずかしすぎて…

彼の顔をどんな顔して見たらいいのか。

怖くて……目が開けられない。






「絢?」

「…………はい」




ゴンドラが揺れ、

甘い香りがふわっと香る。



腕に何かが触れた気がして…

そっと瞳を開けてみた。




すると、隣りに彼が。





「たまには、俺んち来いよ」

「へ?」

「勉強……教えてやる/////」

「えっ?」

「なっ?///////」

「…………はい///////」




顔が赤く見えるのは気のせい?

口調はいつもと変わらず俺様だけど、

表情が柔らかく感じるのは、私の自惚れ??





遊園地デートから1週間。



『たまには、俺んち来いよ』



まさか……そんな日が、来るとは思ってもみなかったよ。

あれはあの時だけの話かと…。


だから…あえて触れずにいたのに。



昨夜の1通のメールで、

私は今日、再び“下僕”と化す。




無視出来れば良かったんだけど、


“何時に来るかメールしろ”


まさか、見てませんでした…とは言えない。

後々さらに面倒な事になるだろうし。




はぁ…。

私の胸が早く成長してくれれば…

こんな想いをしなくて済むのに。



どうして……

ちっとも成長しないの?……私のお胸さん。

栄養が足りない?

マッサージが良くないのかな?

も、もっ、もしかして、一生このまま?






現在Aカップ。

ブラジャーなんて、意味を成して無いくらい…ペタンコ。

この5年…全く成長してない。

毎日思う…私って病気?

何か…何処か…悪くて成長しないの?



母親からは…

『私も同じだったのよ。高校2年の春頃から、ある日突然成長し出して。今じゃ、Dカップ。ウフフッ…』


私はこの言葉を信じてる。

だって、目の前に豊かな胸のお母さんがいるんだもん。

きっと、私だって…あと1年くらい我慢すれば。

きっと…魅惑のナイスバディを手に入れられる……ハズ?




けど、実際…現実は容赦なく私を苦しめる。

生理が初めて来たのだって…つい何か月か前。

今どきの女の子は、小学生で来る子もいるのに。


身長154センチ、体重39キロ。

口に出さなくても分かる。

かなり痩せてるって…。




比べちゃダメだって分かってる。

けど、やっぱり女の子だもん。

可愛いお洋服いっぱい着たいし。

夏に海にだって行きたい。




けど“女性”としての成長は…

まだまだ発展途上……なんだよね。





周りの子が成長するにつれ、

どんどん落ち込む……自分。




どうしてなんだろう。

なんでなんだろう。

いつになったら…。

どうやったら…。

何したら…。




考えても考えても答えは見つからず。



そして、辿り着いた先が…


この“超極厚パット”!!


雑誌に“超デカ盛り”と表示してあって、

お母さんにおねだりしてゲットした。



初めて着けてみる時は緊張したけど、

Tシャツの生地越しに膨らんだ胸を

上から見下した絶景に感動!!



まぁ、盛るどころか、ブラの生地の中にパットを詰めてるだけなんだけど。

それでも私的には革命的に進化した…気がしたの。




その日から…

憑りつかれたように…

この魔法のパット様を肌身離さず

毎日寝食を共にしている。







「絢~出なくていいの~?もうすぐ10時になるわよ~」

「は~い!!」



はぁ…。

仕方ない……行きますか?



母親の呼びかけが合図となり、

課題の入ったバッグを手にして。




ご主人様の待つ“魔の巣窟”へ

いざ、出陣!!










ピンポーン。



とうとう来てしまった。

………魔の巣窟へ。




「絢、開いてる。入って来い」

「…………はい」





1週間ぶりに聞く彼の声。

少し低めの冷たい感じ。

そして相変わらずの俺様口調。




躍り出す…

心臓に手をあて…深呼吸。






「お邪魔します」

「………上がれ」




玄関に立ち尽くしてる彼。

腕を組んで仁王立ち。

相変わらずの…俺様。




靴を揃え、彼の後を追う。

着いた先は彼の部屋。




「何処でも好きな所に座れ」

「………はい」




彼がソファの真ん中に座ったのを確認して、

前回同様、ラグの上に座る。





「何、ソレ」

「へ?あっ、コレ母からです」




今日の事を話すと、超ハイテンションで用意した。

ウチの母親特製“ミルクレープ”




差し出す手が震える。


そもそも、こういうの嫌いだったらどうしよう。





「手作り?」

「はい」

「マジで?」




彼は何やら嬉しそう。

こ、こっ、これは貴重じゃない?

普通に笑顔だよ!!


ん?

もしかして、甘いのが好きなのかな?

この間もプリン食べてたし。





「コレ、お前じゃ無くて母親?」

「え?……はい」

「へぇ~」




!!!!!

しまったぁ……。

下僕だったら、自分で作んなきゃマズくない?

あ―――どうしよう。

私が作ったって言えば良かったよ。





「食っていい?」

「へ?………どうぞ」




彼はケーキの箱を持って、部屋を出て行った。




フゥ~緊張する。