ブラック王子に狙われて①




「他のヤツは?」

「え?」

「誰かいるのか?」

「えっと、私の親友の佐伯柚子って子がいます」

「で、俺が行けばいいのか?」

「来てくれるんですか?」

「…………あぁ」




ゆずに“OK”と手で合図。




「えっと、で、出来れば…誰かを誘って来て貰えると…」

「誰かって誰?」

「………えっと…」




ゆずが“優くん”と記された紙を差し出す。



「あの……小金井くんって誘えますか?」

「ユウ?」

「えっ………はい…」

「ちょっと待ってろ」

「へ?」




受話器越しに微かに漏れる声。

もしかして、ユウくん…そこにいるの?






「絢?」

「あっ、はい」

「ユウがいいって」

「え?OKってことですか?」

「あぁ。ほら…「もしもし?」

「はい、もしもし?」

「市村さん?久しぶり」

「えっあっ……お久しぶりです」



急に変わるから声が裏返ったじゃない!




「俺でいいの?」

「えっ?」

「いやぁ、2人で行けばいいのに。市村さんからのご指名が俺で良いのかなぁって」

「あぁ~はい!!」

「ん、じゃあ喜んで参加って事で」

「あ、ありがとうございます」

「いえ、どう致しまして。慧に替わるね?」



き、緊張したぁ―――――。



「絢?」

「はい!」

「時間と場所は?」

「えーっと、10時に駅前の広場で」

「ん、了解」



何だかあっさりし過ぎてない?

やけに簡単過ぎて…調子狂う。






「あの、ホントに来てくれるんですか?」

「疑ってんの?」

「い、いえ………」

「俺様を誘ったんだから、楽しませる自信はあるんだろうなぁ?」

「えっ!?」

「フッ。当日を楽しみにしてるから、せいぜい頑張れよ」

「え゛っ…あのっ……」




ツ――――ッ、ツ―――――ッ……





…………切れた。





“楽しませる自信”???


そんなもん、あるワケないじゃん!!




どどど、どっ、どうしよう!!





自分で墓穴を掘っちゃったじゃなぁ――い!!








たった1日の我慢のハズが、


来週の土曜日が終わるまで……


平穏な日々は訪れそうに無い。





デート当日―――――。



とうとうこの日が来てしまった。

あんなに待ち遠しかった“夏休み”が…

初日のしかもたった半日で幕を下ろした。




ブラック王子との電話を切ってから、

毎日考える事は………


『どうしたら、アイツを楽しませる事が出来るか?』



一体、何をしたら…喜ぶの?






ピンポーン。



ゆずが迎えに来た。





「絢、何その服」

「え?」

「ダサすぎる」

「は?」

「はい、部屋戻って」

「ぇえええ~!!」




もう、こうなったらゆずを止められない。

ゆずはヘアメイクやコーディネートに煩い。

将来、スタイリストになりたいらしい。






「ほら、絢…早く座って。時間が無い」

「…………はい」




渋々ドレッサーの前に座り、

全てゆずに委ねることになった。





「これで完璧でしょ」

「………」

「1時間早く来て正解だったね」

「………」




仕上がった私はと言うと…


髪はふんわり巻かれ、ほんのり化粧を施し、

白いノースリーブのブラウスにデニムのショーパン。




肌の露出度が高いのは気のせい?

まぁ、ミニスカートじゃ無くてショーパンだし。

Tシャツと違って、ブラウスならピッタリしてないからヨシとするか。





「絢、行こう」

「うん」





ゆずと共に待ち合わせ場所へ。





駅前広場に到着すると、



!!!!!




「絢、2人とももう来てる」

「………うん」



どどど、ど、どうしよう。

彼を待たせちゃったよぅ…。

機嫌悪くなってないかなぁ?


やっぱり……お仕置きされる?





「ごめんなさい。遅くなって…」

「す、すみません」



ゆずはニコッと笑顔で。

私は棺桶に片足突っ込んだ気分で。




「俺らもさっき来たとこ。えーっと、佐伯さんだよね?」

「はい!!佐伯柚子。“ゆず”って呼んで下さい」

「俺、小金井 優。じゃあ、俺の事は“ユウ”で」

「はいっ!!」




2人してテンション高っ!!

私は隣りのブラック王子に視線を……







!!!!???


怒ってる??

眉間にシワが………。




「す、すみません。お呼び立てしたのに遅れまして…」




ひゃぁ~~怖いよぅ……。

目が………。




「絢、ちょっと」

「はい?」




ギャァァア!!

早速、お呼び出し!?


彼に腕を掴まれ、少し離れた木陰に…。


何!?やっぱり、お仕置き!?




「あの………っん!!!?」




やっぱり……お仕置きなのね。

首にキスマークを………付けられた。




「ほら、行くぞ?」

「…………はい」




4人で電車に揺られ、目的の遊園地に到着。

ゆずが予め用意したチケットでゲート内へ。



すると―――――、




「じゃあ、15時にここで」

「あぁ」

「は?」

「じゃあね、絢」

「えっ?ゆず!!」



思わず、ゆずの腕を掴んで…




「ん?何??」

「何で?」

「何でって、そりゃあラブラブな2人の邪魔出来ないでしょ」

「は?」

「とぼけちゃって~」

「ん?」

「ソレ……朝、無かったよ?」

「へ?」



ゆずは私の首のキスマークを指差し…



「じゃあ、そーいうことで。頑張って~」

「ぇえええ!!」




ゆずはユウくんと仲良く行ってしまった。

私はと言うと……

キスマークが原因で、ブラック王子の“いけにえ”に決定。





「絢、俺らも行くぞ」

「…………はい」



いつもの如く、彼に手を掴まれ…

彼のペースで………?

アレ?? 

今日はそんなに早く無い。

足の長い彼に合わせるの、結構キツかったけど…

今日はいつもより…ゆっくり?



あっ、私がサンダルだから?

気を遣ってくれてるの?




絶叫系を一通り制覇し、休憩。

木陰でジュースを口にすると、




「絢」

「はい」

「何で名前呼ばねぇの?」

「へ?」




名前?

呼ぶようなことあった?

呼ぶ必要が無いから呼ばないだけで。

もしかして……不満なの?