「他のヤツは?」
「え?」
「誰かいるのか?」
「えっと、私の親友の佐伯柚子って子がいます」
「で、俺が行けばいいのか?」
「来てくれるんですか?」
「…………あぁ」
ゆずに“OK”と手で合図。
「えっと、で、出来れば…誰かを誘って来て貰えると…」
「誰かって誰?」
「………えっと…」
ゆずが“優くん”と記された紙を差し出す。
「あの……小金井くんって誘えますか?」
「ユウ?」
「えっ………はい…」
「ちょっと待ってろ」
「へ?」
受話器越しに微かに漏れる声。
もしかして、ユウくん…そこにいるの?
「絢?」
「あっ、はい」
「ユウがいいって」
「え?OKってことですか?」
「あぁ。ほら…「もしもし?」
「はい、もしもし?」
「市村さん?久しぶり」
「えっあっ……お久しぶりです」
急に変わるから声が裏返ったじゃない!
「俺でいいの?」
「えっ?」
「いやぁ、2人で行けばいいのに。市村さんからのご指名が俺で良いのかなぁって」
「あぁ~はい!!」
「ん、じゃあ喜んで参加って事で」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、どう致しまして。慧に替わるね?」
き、緊張したぁ―――――。
「絢?」
「はい!」
「時間と場所は?」
「えーっと、10時に駅前の広場で」
「ん、了解」
何だかあっさりし過ぎてない?
やけに簡単過ぎて…調子狂う。
「あの、ホントに来てくれるんですか?」
「疑ってんの?」
「い、いえ………」
「俺様を誘ったんだから、楽しませる自信はあるんだろうなぁ?」
「えっ!?」
「フッ。当日を楽しみにしてるから、せいぜい頑張れよ」
「え゛っ…あのっ……」
ツ――――ッ、ツ―――――ッ……
…………切れた。
“楽しませる自信”???
そんなもん、あるワケないじゃん!!
どどど、どっ、どうしよう!!
自分で墓穴を掘っちゃったじゃなぁ――い!!
たった1日の我慢のハズが、
来週の土曜日が終わるまで……
平穏な日々は訪れそうに無い。
デート当日―――――。
とうとうこの日が来てしまった。
あんなに待ち遠しかった“夏休み”が…
初日のしかもたった半日で幕を下ろした。
ブラック王子との電話を切ってから、
毎日考える事は………
『どうしたら、アイツを楽しませる事が出来るか?』
一体、何をしたら…喜ぶの?
ピンポーン。
ゆずが迎えに来た。
「絢、何その服」
「え?」
「ダサすぎる」
「は?」
「はい、部屋戻って」
「ぇえええ~!!」
もう、こうなったらゆずを止められない。
ゆずはヘアメイクやコーディネートに煩い。
将来、スタイリストになりたいらしい。
「ほら、絢…早く座って。時間が無い」
「…………はい」
渋々ドレッサーの前に座り、
全てゆずに委ねることになった。
「これで完璧でしょ」
「………」
「1時間早く来て正解だったね」
「………」
仕上がった私はと言うと…
髪はふんわり巻かれ、ほんのり化粧を施し、
白いノースリーブのブラウスにデニムのショーパン。
肌の露出度が高いのは気のせい?
まぁ、ミニスカートじゃ無くてショーパンだし。
Tシャツと違って、ブラウスならピッタリしてないからヨシとするか。
「絢、行こう」
「うん」
ゆずと共に待ち合わせ場所へ。
駅前広場に到着すると、
!!!!!
「絢、2人とももう来てる」
「………うん」
どどど、ど、どうしよう。
彼を待たせちゃったよぅ…。
機嫌悪くなってないかなぁ?
やっぱり……お仕置きされる?
「ごめんなさい。遅くなって…」
「す、すみません」
ゆずはニコッと笑顔で。
私は棺桶に片足突っ込んだ気分で。
「俺らもさっき来たとこ。えーっと、佐伯さんだよね?」
「はい!!佐伯柚子。“ゆず”って呼んで下さい」
「俺、小金井 優。じゃあ、俺の事は“ユウ”で」
「はいっ!!」
2人してテンション高っ!!
私は隣りのブラック王子に視線を……
!!!!???
怒ってる??
眉間にシワが………。
「す、すみません。お呼び立てしたのに遅れまして…」
ひゃぁ~~怖いよぅ……。
目が………。
「絢、ちょっと」
「はい?」
ギャァァア!!
早速、お呼び出し!?
彼に腕を掴まれ、少し離れた木陰に…。
何!?やっぱり、お仕置き!?
「あの………っん!!!?」
やっぱり……お仕置きなのね。
首にキスマークを………付けられた。
「ほら、行くぞ?」
「…………はい」
4人で電車に揺られ、目的の遊園地に到着。
ゆずが予め用意したチケットでゲート内へ。
すると―――――、
「じゃあ、15時にここで」
「あぁ」
「は?」
「じゃあね、絢」
「えっ?ゆず!!」
思わず、ゆずの腕を掴んで…
「ん?何??」
「何で?」
「何でって、そりゃあラブラブな2人の邪魔出来ないでしょ」
「は?」
「とぼけちゃって~」
「ん?」
「ソレ……朝、無かったよ?」
「へ?」
ゆずは私の首のキスマークを指差し…
「じゃあ、そーいうことで。頑張って~」
「ぇえええ!!」
ゆずはユウくんと仲良く行ってしまった。
私はと言うと……
キスマークが原因で、ブラック王子の“いけにえ”に決定。
「絢、俺らも行くぞ」
「…………はい」
いつもの如く、彼に手を掴まれ…
彼のペースで………?
アレ??
今日はそんなに早く無い。
足の長い彼に合わせるの、結構キツかったけど…
今日はいつもより…ゆっくり?
あっ、私がサンダルだから?
気を遣ってくれてるの?
絶叫系を一通り制覇し、休憩。
木陰でジュースを口にすると、
「絢」
「はい」
「何で名前呼ばねぇの?」
「へ?」
名前?
呼ぶようなことあった?
呼ぶ必要が無いから呼ばないだけで。
もしかして……不満なの?