「……」

「おいおい、お前無反応かよ!、それともびびって声も出ねえのかよ!」

あいつに限ってびびってるとかそういう理由で声を出さないのではない。

あいつはこういう状況にも全く動じない奴なんだ。

だけど、今のこの状況に、その状態は悪い方向に繋がる事しかないと俺の直感が働いた。

「てめ!、シカトしてんじゃねーよ!」

「……」

やっぱり思った通りだ。

男の脚が持ち上がり、倒れたエミに向けられる。

こうなったら、出ていかないわけにはいかないんじゃないのか?。
ほんの一瞬の葛藤の後、行動に移る。

「ちょっと待て!」

その言葉とともに鋭い視線がこちらに向けられる。

幸いに、エミに向けられた脚はゆっくりと下ろされた。

「誰だてめー、なんか用かよ!」

「いや、その…」

思いっきりびびっている。

足の震えが止まらない。

そんな姿を、あいつは、エミは何の表情も読み取れない顔で見ている。

ここまで出てきてすいませんでしたで済む状況じゃないよな。

そう思い、覚悟を決める。


「そいつを返してくれないか…」