「…………それが……真実」
ロワは、呆けたように言うとその場に蹲って噎び泣いてしまった。
「・・・っ……うそ、だっ……うそだ、うそだぁ・・・っ……!!」
やっぱり。……いつかは、この話をロワにもしなければならないと思っていた。
「ロワさ……ロワ、泣かないで」
私の息子、ロワの腹違いの兄はその細い肩を抱きしめ、私を見詰めた。
「・・・母上、……妊娠の事実をロワに知られたと勘違いした貴方は、交わった際に偶然受け継がれた『エトワールの奇跡』を使ってロワに復讐しようと・・・」
……我が子ながら、やはり、物分かりのいい子だ。
「えぇ、ロワにはロワの母親の良妻賢母の血が流れている。『エトワールの奇跡』の存在を知らなくても、それだけで十分だわ」
『良妻賢母』、ノアの国では家事をそつなくこなす女性のことを言うのだろうが、私達の世界では、正直者のことを指す言葉だ。
「・・・過去が変われば、未来も変わります。……ノアさんの記憶が変われば、今ノアさんを取り巻いている環境も変わり、ノアさんは私の記憶の夢を視たり、変な言葉を口走ることもなくなります」
ロワも悟ったのだろう、涙声ながらも淀みなく、私の言葉を紡ぐ。
「だから、アンネ様はリナさんになっていたのです。『エトワールの奇跡』は未来に自分の姿を変え干渉する力ですから・・・」
ノアははっとした顔になり、悲しげな目で私を見詰めた。
「……ごめんね、……ごめんなさい、乃愛、ううん、乃愛さん。・・・私、貴方を騙していたの………」
彼女を騙していた私には、彼女を呼び捨てにする権利はない。
「……いいよ」
見上げると、何か決意を秘めた目で此方を見詰める彼女がいた。