そんなジレンマが先に立つ。
だから、つい、こう答えてしまう。
「あんたが好きなのは、剣を振りまわす事だからね。玩具貰ったガキと同じじゃない!」
言った瞬間、違う気がしたけど私は訂正しなかった。言ったからには仕方ない。多分、倍以上の攻撃が来るだろうけど。
「お前、マジ性格悪いぞって言うか、だからあの地区は止めとけって言ったんだよ。あの地区の奴らの特徴そのままじゃんか…厄介だよなコピーが完璧ってのも、抜けきらないから質が悪い。」
彼女のイライラが伝染した。シンクロし過ぎると感情は伝染するから。
「チッ…ウゼ!」
感情の矛先が定まらず、吐き捨てるように彼は呟いた。
彼女はそんな彼の様子に、少しばかりある種の感情が首をもたげる。
チシャ猫みたいに、
ニヤリと笑うとこう囁いた。
「器ないとボキャブラリーが足りないって事が良く判るよ。舌打ちは仕方ないけど、何か一言付けないと文字で表したら。漫画っぽい。」
「漫画は、世界中で認められた作品だぞ。知恵ある割に、世間知らずだよな」
彼のその言葉に、カチンときた。彼女は呑気そうでいて、割とキレやすいのだ。
「世界で認められてる作品はアニメ。アート的にね。漫画は、まだまだ作品ではなく一部の支持者にのみ認められた。娯楽なの…いつかは、優秀な作品として認められるかも知れないけど、まだ文学みたいにはいかないかな。」得意気な声とは裏腹に
少し、伏せ目がちに彼女は答えた。
彼女は、たまにそんな不思議な表情をする。発する言葉と顔が食い違って居る。
そんな複雑な表情。
その顔を見たら、何故か彼も切なくなる。
それを振り払うように彼は、優しく語った。
「良いんじゃないの?
お前が純文学だから…」彼の言葉に彼女の、表情が一気にほどけ。
笑いを堪えるように言った。
「純文学って、淫靡なんけど。」
「淫靡って?」
彼の戸惑う表情を見ながら、彼女はどう説明するか考えた。
純文学の定理が頭に浮かぶ。
雪を表現する言葉。
自然と触れる言葉。
女を表す言葉。
全てが、熟れた果実を手でなぞるような表現。
愛蜜のように滴り、流れ出る慟哭を。
芳しい匂いがするような羅列。
全てが、まるで脱ぎ捨てた人魚みたいにリアルで艶めかしいのだ。
そう、表現全てに想像力を埋め込まれている。
抑え込められたら、より反応してもたげ始めるように。表現は規制と芸の魔術に卓越した言霊を発しているのだ。