「ねぇ明日、海に行こう!」




隣には3年間付き合っているカレ。

明日からあたし達は高2の夏休みを迎える。




だから、学校からの帰り道、あたしの家まで後少しという所で切り出したのに・・・



精一杯、目一杯、笑顔まで添えて明るく言った言葉にカレはピクリと反応した。




「なに?急に?」




カレの不機嫌そうな声に少し怯(ひる)んじゃうけれど、それでもめげずにあたしは続ける。







「毎年、夏になったら行きたがるじゃない。でも、今年は何にも言わないから、あたしから誘ってみたの」


「・・・・・」


「ねぇ、行こうよ・・・」


「・・・分かった」




あたしの家の前に着いたら、そう一言言い残してカレは今来た道を引き返して行った。




あたしのカレ 拓斗(たくと)は、いつも自分の家を通り越してあたしを家まで送り届けてくれる。




そういう所は優しいままなのに、拓斗は最近少し変わってしまった。



最近の拓斗は、あたしに、他の女子の話しばっかりしてくる。




クラスの女の子達と、今日はこんな話をしたとか、こんなことをして楽しかったとか・・・



それだけならまだしも、



「ゆうこちゃんは最近可愛くなった」とか

「さゆりちゃんは可愛い上にスタイルが良くて、男の間で何カップか話題沸騰」とか・・・



さっき不機嫌だった理由もだいたい分かっている。



楽しそうに女の子の話しをしている時に急に話題を変える様に『海に行こう!』なんてあたしが言い出したから。




でも、こんな話をされて、あたしが落ち着いて聞いていられる訳がない。



だって、あたしは、最近拓斗に「可愛い」なんて言われた事がないもん!





「スタイルいい」に至っては、今までに一度だって言われた事がないよ・・・






だから、イライラしてハラハラしてモヤモヤする・・・




でも、あたしの気持ちなんてお構いなしに、嬉しそうに話してくる拓斗を見ていると、

あたしだけヤキモチ妬いているのを知られるのが悔しい。



だから、拓斗のそんな話を愛想笑いで聞いてきた。




本当は心が辛くて痛いのに、

それを隠しながら、

3年付き合っている彼女の余裕を醸(かも)し出す。




絶対、拓斗に「うっとおしい奴」って思われたくない。





だって、好きだから・・・

あたしは、

今もずっと、拓斗のことを大好きだから。






『ねぇ、ちゃんと分かってる?紗希』




携帯電話から聞こえてくるのは、親友、アヤの声。



彼女は、あたしの恋愛相談相手。



最近は拓斗との愚痴を聞いて貰ってばかり。




「うん、頑張るよ!“お色気ムンムン作戦”だっけ?ネーミングがかなりおやじくさいけど、なんとなく内容は分かったから」


『ネーミングは気にしないで・・・でもうちのお父さんが“今も昔も男はそれに弱いもんだ”って言ってたから大丈夫だよ!』




アヤが言う“作戦”は要するに水着姿で拓斗のハートを再加熱ってコト。





「でも、拓斗はあたしの水着姿なんて毎年見てるんだよ。今更、そんなんでドキッ!てさせる自信はないよ・・・」




スタイルにだって自信はないし、

さゆりちゃんやアヤみたいに大きな胸は持っていない。



胸のサイズは、どちらかといえば平均以下・・・




『だ・か・ら、昨日新しい水着を買ったんでしょうが!前の紗希の水着はスクール水着と大差なかったんだから!昨日買った水着を着た紗希を見たら、拓斗くん鼻血出すかもよ~』


「そ、そうかな?」


『うん!自信持ちなよ。似合ってた!どころか、めちゃ可愛かったから!』





アヤの言葉を聞いて少し自信がついた。



変わってしまった拓斗の態度にウジウジ悩んでいる場合じゃない。



なんとかこの状況を打破したい!





そして、以前の、あたしだけ見てくれていた拓斗に戻って欲しいから・・・