「次から次へと…」
丁嵐は呟いて「いる訳ないだろそんなの」
「だって見たんですよ!川の方にスゥ~って入ってくのを!」
「…川に?」と詠はさっきのパシャンと言う音を聞いたのを思い出して振り向いた
「どうかいたしました?」
ヒョコッと現れた華宮に驚いた詠は「ぎゃあっ!!」と大声を出した
「いきなり現れんなって言っといただろ?!華宮!」
「すみません詠さんまたやってしまいました癖になってしまったようです」
「癖にすんな」
笑みを見せる華宮に詠は呆れてため息をついた
「きゃあっ!」
胡蝶の叫び声がして全員が振り向いた
「どうしたの?!胡蝶!?」
蔭平が尋ねた
「で、で、で、出たんですのよ!幽霊が!」
「えっ?!何処に?!」
「あっちの茂みの方ですわ!!」
「茂み?」と詠と丁嵐はスタスタと茂みの中へ入って行った
「何かいます?」
華宮が尋ねた
「…あー…いたわ見てみ華宮」
「?」と華宮は詠の後ろから丁嵐の指差す方を見た
「あら!長水さん何処に行ったかと思ったらここにいたんですね!」
茂みの中で疲れきっている長水を見て全員は「人騒がせな奴」と苦笑いした
《黒影》
「…大丈夫か丁嵐?」
「…眠い」
目の下に大きなクマを作って朝稽古しているふらふらの丁嵐に詠は思わず声をかけた
「お前…よく平気だな」
「姉貴の店の手伝いで夜更かしは慣れてるからな」
「慣れていいものなのか?」と一瞬思った丁嵐
「ったくこれだから困るぜ夜更かしもまともに出来ないふらふら王子は!」
「まともに出来て良いもんじゃねぇだろ?!それに俺は低血圧なだけだ長水!」
丁嵐は思わず振り向いて叫んだ
「相変わらず仲良いよね2人」
蔭平は「毎日毎日」と笑った
「長水先輩と丁嵐先輩って同じ中学だったんですか?」
隣で凪が尋ねた
「違うよ長水は京都の《木枯(コガラシ)中学》、丁嵐は愛知の《茅(チガヤ)中学》出身だからね」
「ちなみに丁嵐は今年の2年の始めに愛知からこっちに引越してきたんだ」
「前は愛知の秋桐高校の剣道部」と詠は付け足した
「秋桐高校って剣道すごく強い所ですよね!毎年「秋桐高校が何だって?」
ガシッと凪の頭を掴んで丁嵐は『笑顔』で尋ねた
明らかに機嫌が悪い
凪は身体中が真っ青になった
「何、何も…言ってま、せん!」
「だよね!」といつもと違う口調と表情で丁嵐は笑顔で凪を見た
「先輩!僕ちょっと外で練習して来まーす!!」
タタタッと外へ走って行った凪
「全く…」と周りに聞こえない程度の小声で呟いて丁嵐は元いた場所に戻り素振りを始めた
「…」
それを見ていた詠は何も言わずに床に置いといた竹刀を拾った
「伊助!何してんのよ?!」
「え?あ、小牧か…いや、あの、顔洗ってたんだよ」
「顔洗ってたってべちゃべちゃじゃない!」
「もう!下手なんだから」と凪と同じ学年で幼馴染の《神崎小牧(カンザキコマキ)》は水浸しの凪をタオルで拭いた
「それくらい自分で出来るよ小牧!」と凪は真っ赤になって神崎を見た
「水道で顔だけ洗う事もまともに出来ないのに?」
「いや、それは…」
その瞬間「すいません」と誰かが2人に話しかけた
振り向いた凪と神崎
「こんにちは」
と挨拶する男の制服を見る限りここら辺の学校の人じゃない事は明らかに分かる
でも何処かで見たような…と凪は首を傾げた
「2人は剣道部員とマネージャーか何かですか?」と男は尋ねてきた