ちょっと……いや、随分と悩んだけれど、覚悟を決めてコクンと首を縦に振る。



「ああ……」


溜息のように細い声を漏らして、視線をわたしから逸らした『彼』。その頬がほんのり薄桃色に染まって、それを目にしたわたしは不思議なくすぐったさを覚える。



そろり、横目でわたしの顔を窺い見る。そうしてから『彼』は、観念したみたいに座ったままわたしの方に真っ直ぐ向き直った。



『彼』の顔がゆっくりゆっくり近づいて来て。


ドックドックドック――


わたしの心臓と脈がうるさいほどに騒ぐ。



期待に膨らんだ胸が悦びを唄い、わたしの全身全霊が『彼』を待っていた。



瞼を落とせば視界も消える。そんなのは当たり前のことなのに、どうしてだか神秘的な世界が脳裏に広がった。



ふわり、不器用に重ねられた唇。



わたしだけじゃなく『彼』も、キスが下手くそだったことが、


すごくすごく嬉しかった。