彼女は“あの紙”をそっと受け取り、折り目に沿って元の大きさに畳んだ。そうして、手に提げているハンドバッグの中に大切そうにしまった。



「とにかく、ありがとうね。えっと……」

わたしの胸の名札に視線を落とし、「橋本さん」と続けて、彼女は苦笑のような愛想笑いを浮かべた。



パタン――


乾いた音を鳴らして玄関の扉が閉まる。



彼女は出て行った。きっと夜のお仕事。



さっき来ていた男の人――ヤクザみたいな強面のオジサンは、お客さんなのかな。


ぼんやり扉を見詰めてそんなことを考えていたら、グイともの凄い力で腕を引かれた。



はっとして見上げれば、隣には今にも泣き出しそうな横顔があった。顔は真っ直ぐ前に向けたまま、決して私の方は見ない。


千切れそうなぐらいに腕を引っ張られ、奥の部屋へと連れて行かれた。