『彼』は、壁にもたれるようにして畳に腰を落とし、手にしたリモコンでテレビの電源をつける。



またわたしは、どうしたらいいかわからなくて、玄関入ってすぐのキッチンに突っ立ったままでいた。



『彼』が今居る畳の部屋はキッチン、ダイニングと一続きだから、ここから部屋全体が見渡せる。


壁にもたれてテレビを見ている『彼』、その後ろには鏡台に向う『彼』のお母さん。


二人は同じ空間に居るはずなのに、まるで別の場所に居るみたい。合成写真みたいに映るその光景が、わたしの胸を苦しくさせた。



『彼』の横顔を、じいっと見詰めていると、不意に『彼』の顔がこちらを向く。


突然に目線がぶつかって、心臓が飛び出てしまうんじゃないかってぐらいに跳ねた。



『彼』の視線がゆっくりと落ちる。それと同時に長い睫も下を向いた。そして、


ポンポン――


『彼』は自分のお尻のすぐ横の畳を軽く二回叩いた。



(そこに座っていいの?)