アパートの下で車のエンジン音が鳴る。ブオンと一度唸りをあげてから、それは遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。



『彼』はむくっと立ち上がった。そうして何食わぬ顔でドアを開け、中へと消える。


わたしも立ち上がってはみたものの、入っていいかどうかわからなくて、突っ立ったまま、ぼーっとドアを見つめていた。



すぐに『彼』が再び出て来て、わたしの手を引き中へ導いてくれた。



キッチン、ダイニング、六畳間が一続きになっているそこ。奥の窓際にある鏡台に向かって、ランジェリー姿の『彼』のお母さんがお化粧をしていた。



彼女は『彼』の方を見向きもしない。お化粧に夢中で気付かないのかな?



『彼』の方も、まるで彼女がそこに居ないかのように振る舞う。



どうして……?

こんなの、なんだか寂しいよ。