不意に男の人がわたしに視線を寄越す。



「可愛い子だなぁ、お前の彼女か?」



『彼』は何も答えない。表情のない伏し目がちな横顔は、ぼんやりとコンクリートを見詰めたままだ。



男の人は小さく笑い声を漏らすと、


「青春してんなぁ」


何故だか上機嫌に言って、ようやく立ち去ってくれた。



(大丈夫?)



固まったまま石みたいに動かない『彼』の、膝の上に乗っかっている手にそっと触れた。



それでも『彼』の身体はじっと固まったままだったけど、わたしの手をキュッと握り返してくれた。



子どもにはわからない大人の複雑な事情に、『彼』は苦しめられているんだ、きっと……。



酷く曖昧だけど、そんな風に思った。