わたしの目の前まで来ると、それを乱暴に奪い取った。



破れてしまうんじゃないかって、そんなわたしの心配なんか余所に、『彼』はそれをクシュクシュっと丸めてズボンのポケットに突っ込んだ。


そして、ポケットから手を抜かず顔も俯いたままで、しばらくの間動きを止めた。



まるで考え事でもしているように。

後悔でもしているように。



(それ、本当はとても大切なものなんでしょう?)



静かに『彼』に近付き、『彼』の手に触れた。そうして、ポケットの中からそうっと出してあげる。


今度はわたしの手をそのポケットの中に突っ込めば、『彼』の身体が小さく跳ねた。その振動がわたしにも伝わって……。



クスリ、ついつい笑ってしまう。



「あ?」


いつもの声に見上げれば、片眉をひそめた『彼』がわたしを訝しげに見ていた。けれどどこか、はにかんでいるようなあどけなさがあって。



(可愛い……)