夜空に瞬く星の下、暗い洞窟の中に、一人の老婆が座っていた。老婆の目の前には、不思議な図柄が並んだ、正方形の布の上に、様々な道具が散乱している。それを見つめる老婆に、フードを被った女性が話しかけた。
「…長老様………」
「…分かっておるわ………テムジンを呼べ」
「はっ……」
フードを被った女性は頭を下げながらゆっくりと下がって洞窟を出て行った。暫くして、女性はもう一人の男を連れて戻って来た。男は女性と洞窟の入口で別れて、老婆のもとへ来た。
「お呼びでしょうか、長老?」
「…来たか、テムジン」
老婆がテムジンと呼んだ男は、フードを被っていないが、腰には剣を提げ、その顔は精悍な戦士そのものの顔をしている。
「……星が、郷への来訪者の存在を告げておる…」
「……来訪者……?」
「……だが、星は瞬きを繰り返し、未だその吉凶の様を見ることが叶わぬ……」
「……その来訪者は、如何いたしますか?」
「……その来訪者が、郷に吉事をもたらすならば良し……災いをもたらすならば……撃退せよ」
「………御意…」
テムジンは着ていた服の裾を翻して洞窟から出て行き、入口で待っている女性に声をかけた。
「アルガ、守人を召集してくれ。陣形も決めなくてはならないからな」
「はい、テムジン様。では、広場に30分後に召集をかけておきます」
「では、任せたぞ」
テムジンは再び歩き出した。
「……長老が、星の吉凶を判断出来ないとは……一体、何が起こっているんだ………」
テムジンは言い知れぬ不安を胸に抱きながら、準備のために家へと戻った。