コーヒーでも飲もうと給湯室の手前まで来たところで、
ブルッと手のひらが震えた。
『あ、』
ディスプレイに流れる文字を見て少々躊躇ってしまう。
どうしよう、でも残業中にまたコールされてもと思い直しダイヤルキーを押した。
『ハイ、』
“マナさん?今大丈夫?”
『はい、少しなら。』
“今夜、夕食でもどうかと思って、もう退社時間だよね。”
予想通りのお誘いだ。でも断ろう。残業といういい訳があってよかった。
以前はひと月に2~3回程度だったのに、就職してから週2ペースになってきている。
それも一介のOLじゃとても行けないような高級レストランや料亭ばかり。
かなり心苦しくなってきていた。
『ごめんなさい。残業が入ってしまって・・
これからまた仕事なんです。』
“えっ!? そっか、どのくらい掛かりそう?”
『ちょっと、予測できないです。』
”迎えに行きたいけど・・・”
『いえ、大丈夫です、終電には間に合うかと思いますから電車で帰れます。』
一気に捲くし立てた。この前みたいに会社の真正面で待たれたら困るし。
“あ、いや、僕も深夜から勤務なんで無理だよって言おうと思ったんだよね”
『・・・、』
(やばい、気まずい、どうしよう)
“もっと、”
『・・は・・い?』
“甘えて欲しいのに。”
その言葉が意図する意味合いはわかる、けどあえて触れない。
ずっとそうしてきたんだから。