「あ?ああ、堅いこと言うなよ。ま、いいじゃないの、あだ名だと思えば。」
『…、』再び小さくため息がでる。
(もう、名札のプレート、平仮名に書き換えようかな)
「特別残業で手当だすから、な!」
『あの、取り掛かる前に電話いいですか?』
「お、彼氏か?」
『いえ、箱入りなもんですから。』
「15分休憩つけるよ。」
『・・ありがとうございます。』
オフィスの中、人も疎らになるのを待ってから
携帯を手にして立ち上がった。
一番端の窓際のあたりまで歩き、携帯を開く。
コール1回、
“はい、キノウエです”
『ママ?もしもし、あたしだけど。』
“あ、ああ?真奈ちゃん?”
なんで驚いてるの?ナンバー出てるでしょうに。
『残業になっちゃったから、』
“え、そうなの?!”なんて、声が嬉しそうなのは気のせいだろうか。
それになんだか受話器の向こう、騒がしい気配がする。
姪っ子の澄香のハイテンションな叫び声が度々聴こえる。
お客さんでも来てるのかも知れない。
“そうそ、なんか荷物着いてるわよ”
『ホント?よかったぁ。』
“部屋に運んでおいたから。
あ、それから、帰り、駅に着いたら電話して。”
『・・・? はーい。』
(…そんなこといつも言わないのに)
少し腑に落ちなかったけど、迎えに来てくれるのかもと勝手に解釈して携帯を閉じた。
そういうことなら今晩家に帰ってからも忙しいし。
注文しておいたノートPC、休み前に届いてくれて助かった。
これで予定通り進められそうだ。