机を並べてから1ヶ月近くになる。
「田舎にいる妹に似てるの」なんて、とても可愛がって貰っている。一緒にいて心許せる貴重な先輩だ。名前呼びしてくれてるし。
だけど入社直後からランチはいつも一緒しているのに、多勢での飲み会とかのお誘いはすべて断っているあたし。
苦手というか、人見知りなんだよね。新しい出会いに臆病になってる。
次は参加しようか・・なんて思いながら帰り支度を始めると、
「キガミちゃん、キガミちゃーーん、」
大きな声、そんな何回も呼ばなくても。
課長に呼ばれてしまった。あたしの事だわね、たぶん。
裏で女子社員に【豚まんじゅう】呼ばわりされてるのがわかるわ、歩くだけでお腹が上下に揺れるほどのメタボな体が迫ってきた。
(勘弁して…)
今さら気配を消そうとしても無理なのは明らかで、
『はい。』と仕方なく返事をした。
「コレなんだけど、休み明けのプレゼンでどうしても必要でね、
やってもらえるかな?なんかみんな忙しいらしくて…」
ドサッと置かれる資料の束、これは2時間、いや3時間コース決定だわ。
しょうがないか、派遣だし。
『…わかりました。』
「申し訳ないけど頼むな。まぁ明日から休みなんだしいいよな、」
覗き込むような眼差しがちょいキモイ。
気づかれないように俯き加減でため息をそっと吐いた。
「キガミちゃん、優秀だから助かるよ。」
『あの、キガミじゃなくて、キノウエです。』
勤めだしてから1ヶ月近く経っているのというのに、未だにこうして【キガミさん】と呼ばれることがある。
【木下】は【キノシタ】なのに
なぜ、【木上】を【キノウエ】と読んでくれないんだろうか。
派遣だからというわけではない。昔からそうだった。
でも、そのおかげで初対面の人に覚えてもらえる場合もあるから、五十歩百歩というところなんだけれど。