+++ 突然の訪問者 +++
『よし、終わった!』
思わず出てしまった声に首をすくめる。
「真奈ちゃん、終わったの?」
隣のお局様、もとい、原さんがこっそりと声をかけてくれた。仕事には厳しいけど、何かと気にかけてくれる優しい先輩だ。
『はい。』
あたしは、この春短大を卒業して社会人になったばかり。
こんなご時世だから正社員にはなれなかったけれど、業界では有名な派遣会社になんとか登録する事ができた。即戦力となるべく努力の甲斐あって、4月からはこの大手の商社に事務職として勤務している。
本来の目標としていた職種ではない普通のOLになってしまったけれど、夢を諦めたわけじゃない。
働きながら、それを実現するべく、スキルアップをしていく計画だから。
―――あくまでも想定内。
メディアを差し込んで保存をクリックした。これでノルマは終了。
時計を見れば、終業10分前。周りはざわつき始めている。
無理もない。だって、明日からG·W(ゴールデンウィーク)しかも10連休なんだから。
「連休は彼氏と旅行でも行くの?」
『いえ、そんな人いませんから。』
「またまたぁ、この前見ちゃったわよ。すごい高級車でお迎えが来てたじゃない。」
『ああ、あの人は違うんです。お世話になった事があるってだけで…』
「そうなの?」
『そうなんですよ。原さんこそ、ご旅行ですか?』
「まあね、いい歳の女友達とパワースポット巡り!もうこうなったら神頼みしかないのよ。」
『ふふっ、頑張ってくださいね。』
そんな会話をしているうちに、終業を知らせるチャイムが鳴り響く。
同時に飛び出していく女子社員数名。今晩からどこかへ出かけるんだろう、更衣室に大きいスーツケースがドンと置いてあった。
「休み明けに報告するわね、たまには飲み会にも付き合って?」
にっこり微笑んで立ち上がる原さんに、
『はい、わかりました。お疲れ様でした。』
なんとか笑みを返した。