ドンと背中が壁にあたる。
彼のもう片方の手が、あたしの首筋に触れた瞬間、



『ん・・・』

息ができなくなった。
あまりにも突然で、避けることさえできなかった。


(キス?されてる?)

意識したとたん、心臓が鷲掴みされたように痛みだす。

ドクンドクンと血液が頭に昇っていく。
顔が熱い・・足のチカラが抜けそう。

そして、目頭がジーンとしてきた――


『…ウッ…』


「えー?あ、ご、ごめん!」

ようやく離れた唇。
ものすごく近くに拓也の驚いた顔がある。



『なっ…』

なんで?というつもりだったのに言葉が出てこない。
かわりに涙がポタポタと落ちていく。
顔をあげられない。




「ごめん、焦りすぎた。
泣かせるつもりじゃなかったんだ。」


フワッと胸に引き寄せられ、体全部が包み込まれた。


そうして、

「好きなんだ…」

耳元でささやく声が、呪文のように沁みこんできた・・




「知らなかったんだ。昨日まで…」

拓也の吐息が耳をくすぐる。



「あいつ、蘇我とは生徒会で一緒にいるだけだと思ってた。
でも昨日、放課後に並んで帰るトコ見かけてさ。
それで友達に聞いて初めて知ったんだ、つき合ってるって。」



『う・・ん。』


「信じられなかった。」

あたしに向けられた、まっすぐな瞳。



「奴と手ぇつないだり、
その・・キスとかしてるのかって考えたら気が変になりそうで・・だからもう我慢できなかったんだ。」

そう言って、ギュッとあたしを抱きしめる。



「だって、キノウエさん、オレの事好きなんじゃないかな?って・・・
よく眼ぇ合ってたよね、
それに時々、笑ってくれてた。だから・・・」


『ええ?』


「オレ、やっと見つけたって思ってた。いつ告ろうかなって、ずっと迷ってたんだ。
それなのに、あんな奴に先越されるなんて、それで、焦っちゃって。」 




『どうして、アタシなん・・・』


「オレ、勘違いしてた?」





『それは・・・』