* 追憶① 略奪 *
「キノウエ、マナさん?」
渡り廊下で、突然声を掛けられた。
それが、拓也との初めての接点だった。
生徒会室から教室に戻ろうとしていたところで、
新役員への引継ぎが終了し、
『やっとこれで受験に専念できるね』って、元生徒会長と話をしながら歩いていた。
渡り廊下とはいっても、幅は教室くらいスペースがある。
体育館の使えないクラブが、そこで練習が出来るくらい広い。
彼、拓也は空き時間になると、
いつもそこで、友人達とたむろしていた。
彼はいつも輪の中心にいた。
男子と居ても、もちろん女子と居ても。
『ハ・・イ?』
あたしの名前を知っていた事実に驚いた。
しかも、ちゃんとキノウエって言ってくれてる。
「話がしたいんだけど、いいかな?」
『え?今?』
「そう、もう帰るんでしょ?」
『そうだけど・・・』
チラッと隣をみる。
元生徒会長の蘇我くんは、一応あたしの彼氏だ。ほんの2ヶ月前からだけど。
帰りはいつも一緒に下校していた。
それは、拓也も知っているはずだと思っていた。
会長と書記がくっついたってちょっと前に噂になってたから・・
「とにかく、来て!」
あたしの腕をとってグイっと引きよせる。
『え?ちょっと!』
「ああ、じゃ、僕は先に行って待ってるよ。正門の・・・」
そう言う蘇我くんの顔は引きつってる。
言い終わるのを待たずに、
拓也はあたしの手を引いて走り出した。
そんなあたしたちの姿を
他の生徒たちが、興味深々で眺めていて・・・
『な、なに?』
「いいから!!」
振り向きながら笑いかける拓也は
ものすごく嬉しそう。
(まさか そんなはずない)
自分の中にひとつ浮かんだ思いを慌てて否定する。
校舎の裏手、倉庫の端でやっと止まった。
手、握られたままだ。
「あのさ、単刀直入に言うね。
オレ、キノウエさんが好きなんだ。
彼女になってくれないかな。」
『はぁ?』
あまりに突然の出来事。
現実とは思えない。
だけど、次に起こった事で、
それが本当のことだと思い知らされた。