「ハナは、今日も泣いてるね」
そして、その羨ましくなるような柔らかな声でそう囁いた。
「泣いて、ないよ」
鼓膜を震わすアダムの声に熱くなる目頭。
それを誤魔化すように、ぎゅっと眉間にしわを寄せ可愛くない言葉を発する。
(…あ…)
口から出たその音。それが己の首を絞めた。
嫌な音になってしまったと後悔してももう遅い。
一度世界に触れ空気を揺らしてしまった音はもう戻らない。
その音が変わることはないのだ。
それでもアダムは変わらず綺麗に笑う。
まるで気にしていないように、花を咲かせる。
「泣いてるよ。この間も、今も」
ハナのここが。ずっと泣いてる。
ここ、とそう言ってアダムは自らの胸を人差し指でトントンと叩いた。