「ところで悪点よ、ちょうど良い。わしの話を聞いてはくれぬかえ」


「聞くのは構わないが、そなたが早くせねばなるまい。命が大事だ」


「そうなったら、そやつの目に毒霧を吹きかけてやるさね」


 妖かしはそう言い、喉の奥から、ふしゅーっ、と乾ききった空気の抜ける音を出した。

毒霧など吹きかけられては、失明沙汰だ。


 どちらにせよ清明が望むことでは無いので、早めに話を聞き終える事にした。


「それでな、それでな。右京の方でな」


「ふむ」


「なんだか妙な臭いがするのさ」


「土の臭い?」


「いんや、それもするが、もっと嫌な臭いぞ。

わしらが嫌いな―――そう、香だ!」


「香だって?」


 少し声を大きくしてしまったので、清明ははっと口をつぐみ、「香の臭いか?」と小声で問い直した。



「うむ、伽羅にも似たいやあな臭いさ。昨日からあれがほんのりとと左京に充満していてね。

わしは左京に住み着いておったが、もうあそこにはおれぬわ。


右京も、左京ほどではないがその臭いが漂っておるし、もうお山に逃げるしかないのう」


「私は、その臭いに気づけなかった」


「当たり前であろう。主は右京におるのかの。

左京はともかく、右京は香の臭いが薄いからのう、人の鼻ごときが嗅げるわけがない」