泰成の様子は少しおかしいな、と清明は思っていたりする。
会話の中で彼が瞠目した時、僅かに平常心とかいったものが揺らいだように見えた。
もしや、自分はなにか彼の傷口に塩を塗るような事を言ってしまったか。
そうだとしたら悪いことをしたかもしれぬ。
(それにしても、土の臭いとは)
この土の臭いは、山のものとしか考えられない。
湿った土ともいえるが、時折、生暖かい臭さが鼻腔を突く。
清明が住んでいるのは山に近い場所なので、豪雨の日が明けた時などには、たまにこの臭いが漂ってくる。
慣れてしまっていたためか、気付けなかった。
仕事が一段落して、足を止めて立ったまま一息つく。
「おやおや、悪点の坊やじゃあないかえ」
陰陽寮の軒下から、ぬるりと光る緑色の鱗を持った、
無数の足を持った百足のような形の蛇がのこのこと這い出でてきた。
よくもまあ、妖かしの天敵も同然の陰陽師の巣窟に、異形がのこのこと入ってこられたものだ。
もし清明で無ければ、今頃祓われてしまっていたに違いない。
清明は小さくかが見込み、ひそっ、と小声で妖かしに忠告した。
「だめではないか、こんなところに来たら。
今の陰陽寮は物騒なのだ、はようここから去りなさい」
「死人が蘇った事に、人間はまだ馬鹿騒ぎしておるのか。臆病者」
ひょっひょと笑い声をあげる妖かしは、全くもって無防備そのものである。