「しかし泰成殿、それをなぜ私に言うてくれるのですか」
「いいや、いいや、他の者にも言いはしたが、なかなか理解してくれるものがいなくてね」
泰成はそう言ったが、それはどこか侮ったような口ぶりである。
「それに妖かしが関わっているとなれば、やはり手出しはしにくい。
皆、己の命が大事だからな。
自ら調べようなどとは誰も思わぬだろう。
いくらお人よしでも」
ぐるる、と蓬丸が牙を剥くように唸った。
《貴様、清明様が死んでもよいとでも言うのか》
確かに、彼の言葉の裏を返せば、気になるのならお前が調べて来い、と言っているようなものである。
陰陽寮は人手不足と言うわけではないが、清明ほどの落ちこぼれとなれば、そう妖かしに食われて死んでも支障は無いだろう、と。
清明は、「このまま何も起こらなければ、ようございます」と正直なことを言った。
「何も起こらなければ、か」
「死人が蘇ってきたという事は確かに怪異。
しかしそれが惨事にならぬのならば、むしろ、肉親などを亡くされたお方たちにとっては、良いのではないかと・・・」
そこで泰成が小さく瞠目した。
しかしすぐに鼻で息をつき、深く思慮したような視線で清明を捉えた。
「人は、肉親よりも己の命運の返還を望んでいるのではないかと思うがな」
一瞬、清明は話が逸れたのに気づけなかった。