「全く困ったものよ、天冥殿のことでただでさえ忙しくなっているというのに、死者まで蘇るという怪異が起こってはなあ・・・」
泰成が溜め息をついた。
異論は無い。
むしろその通りである。
しかし、人の悪口を言う清明では無い。愚痴を言う前に、
「たれぞ、泰山府君祭かなにかを行ったのでしょうか」
と、問うた。
「いいや、それは無かろう。泰山府君祭を行えるほどの呪力の持ち主は、早々いるものではない」
そういう割には、泰成の言葉は簡素と言うか、あっさりとそれを言った。
「それとも、蘇ってきた死人たちは、実は妖怪変化だったりするのかも知れぬしな」
「妖怪変化にしても、妖かしは何ゆえに事を起こしているのでしょう」
「妖かしどもの考える事など、人の知る所ではないだろう」
「はあ、それは・・・」
一見肯定するように言ったが、心底、清明はその言動に納得できなかった。
妖かしは人と全く同じである。
食うもの、住みか、形が人と異なる、それだけのことだ。
反論するわけにはいかないので、清明は立場をわきまえて黙っている。
「だが、気になることといえば」
本音にも近い台詞が、泰成の口から零れ出た。
「奇妙な匂いが、どこに行っても漂ってはおらぬか」
「奇妙な匂い、とは」
「なにやら、土臭いというか、しかし香の匂いにも似ているというか、そんな匂いだ」
言われるや、清明も鼻をひくつかせてみる。
土の匂いといわれると、確かにするかもしれない。
豪雨の後に土を掘り返すと、だいたいこんな臭いがするのではないかと想像ができる。
しかしそっちの臭いが強いせいなのか、香の香りはしない。
「確かに・・・土臭うございます」
土を掘り返したような、臭いだ。