かつて、幼き頃の清明もそんなことを考えなかったことは無いが、いまは落ち着いて、自らが墓穴を掘ったのだと自覚している。



 それに、晴明は稀代の陰陽師、偉人である。


 比べられても仕方ないのだ。



「清明」


 呼ばれてふと、顔を上げる。


 件の、橘泰成である。陰陽寮の中でも筆頭たる風格をまとい、長身の泰成は清明を呼んだのだった。


 泰成というと嫌でも天冥のことが思い浮かんでしまうが、今はそれを考えるべき時ではない。



「どうなさいましたか」


「懐剣と鏡の用意はできたか?」


「ええ、ここに」


 
 それらを泰成に差し出す清明は、彼の風格との差がありすぎるからか、弱腰になっているふうにも見える。

 
 泰成も、あと一年もせぬうちに陰陽博士の中でも上位として上に立つ事になるだろう。


彼のまとう雰囲気らしからぬものが、それを決定付けている。


 それも加えて清明よりも泰成の方が年上であるからか、いっそう清明が小さく見えてしまう。


 先ほど晴明がいないから加持祈祷をどうすればよいかと言う話があったが、


いないのならば泰成を使ってもいいのではないかとも思う。