《陰陽寮がこんなに騒ぐなんて、いまだかつて無い大事件にございます》
「天冥に死者蘇り・・・陰陽寮は今は板ばさみの時期なのか」
呑気に大事件などとぼやく蓬丸と、大属から回される仕事をこなす傍ら、清明は疲れたとも言わず、悩むように言った。
通常であれば昼過ぎに退出の許可はもらえるはずであったが、この騒々しい様子は、退出の「た」の字も言わせない。
そのせいか、誰も退出しようとはしない。
皆、清明と同様に逢魔ヶ刻になってもせっせと働いている。
「陰陽頭、晴明殿は今、帝のお傍に・・・」
「やはりか。・・・いい、確かに帝が優先ぞ。他の、呪力が強い者をここへ」
「ではやはり、晴明殿がいないとすれば、他はもう天冥しかおりませぬ」
「賀茂家の光栄(みつよし)殿では」
「いいや、晴明殿がいないとなれば、やはり吉昌(よしまさ)殿や吉平(よしひら)殿であろう」
がやがやと飛び交う言霊が見えてなのか、蓬丸は清明の懐の中で、ふああ、と大欠伸をかました。
《狐の子供の子供が祈祷をやったって、逆に怨霊を呼びかねませぬがねえ》
平気で、皮肉めいた事をいう。
蓬丸の理論から言わせれば、たとえ清明が落ちこぼれとして扱われていても、晴明さえいなければ、
『晴明の悪点』などとたいそう不名誉なあだ名をつけられる事も
無かったということになる。
理屈にならぬ理屈が理由で、蓬丸は晴明を良く思っていない。
これは見も蓋も無い逆恨みである。