一瞬だけ、天冥は真顔に戻り、普段の冷めた心を取り戻した。
「なぜ、ここにいるのだ」
最初にそれを問うた。
人間が蘇る事は、絶対不可である。
もしできたとしても、それは泰山府君祭(たいざんふくんのまつり)にて代わりの者を泰山府君に奉げ、死者を甦らせることである。
しかしそれには、晴明ほどの呪力がなければ行使できぬ。
身寄りの無い莢の蘇りを、誰かが頼んだわけでもないだろう。
天冥もその気になればできるだろうが、莢が死んだ当時は、殺し殺されるのも、生き死にするのも、生きていれば仕方が無い、
甘んじてそれを受け入れる必要があると言い聞かせ、しなかった。
いいや、本当は、そのような善たる方術など、外道の自分に使えるはずなど無い――と、諦めていたに過ぎない。
言い聞かせた、とある部分は、あくまで己の中に残る蚊ほどの良心に言い訳をしていたのだった。
「なぜって、これから囚獄司に向かうのですよ」
「そうではない、お前は死んだはずだろう。
死に際に、俺に、この世に悔いが残るのは俺のせいだと言ったではないか」
言った。
一年前、その言葉の理由が『多優への想いが届かなかったから、この世に悔いが残るのだ』という、
莢なりの謎かけであり告白であったことにやっと気付いたのだ。
「ああ・・・。それは・・・」
莢が顔を赤らめた。
「言葉の意味に、気付きましたか」
「気付いた・・・。いや、それどころではない。お前は自分が死んだ事に気づいておるのか」
莢の姿は十一年前、つまり彼女が二十歳の頃のままだ。
全く皺のひとつも無い、死んだ当時の姿から変わってはいない。