外から飲物を買ってホテルに帰ってくるとロビーに彼がいた

スタッフと話が終えて別れるところだった
彼が私に気づきにっこり笑って私の方へ歩いてくる

左頬に絆創膏が貼ってあった

「どこへ?」
「あ 飲物が欲しくて外まで買いに」
「そう…..あの….彼女は どうしている?大丈夫そう?」

先輩を...心配しているんだ そうだよね 

「眠っています」と口を衝いて出た

「少し 話してもいいかな」
「はい」

誰もいない静かな中庭にあるプールサイド
幾つもあるガーデンテーブルの中央に向き合ってふたりは座った

「もしよかったらどうぞ」買ってきた飲物を彼に渡す
「ありがとう」

夜の暗がりにプールサイドのブルーのライトが綺麗に見えた
遠くで波の音が聞こえてくる 
プールの水面に映る月がゆらゆらと幻想的だった
彼はその月をじっと見ていた 

私に話す言葉を探しているの?

「明日….. 妻と一緒に日本に帰えってくる 妻の.....お腹には….」

残酷な告白

「先輩は…..その事を知っているんですか?」
「いや 知らない 俺もさっき知ったから」
「先輩を 愛しているのでしょう?」
「俺に もう…… 彼女を愛しているなんて言う権利はないよ」

彼は瞳を伏せた
「やっぱり俺は ひどい男だ」

出会いは 何故 恋も愛も時間も人も選べないのだろう
ほんの少し彼に出会う時間が早かったなら….
彼じゃない他の誰かに恋をしていれば…..

そうすれば誰も傷つく事もなかった 

先輩だって …….