野バトの静かな鳴き声で僕は目を覚ました。


リアルな夢に、現実に戻るのが遅れた。


机の上の写真からは僕たちの笑い声が聞こえてくるようだった。


窓を開けると、少しだけ肌寒い風が金木犀の香りを運んできて


…涙がこぼれた。


大声で泣きたかった。


勇気がない僕は、やり残していることがある。


いつでも、今すぐにでもそれは出来るのに、やっぱり出来ないでもう10回もこうしてキンモクセイの朝を迎えている。


記憶は日常の中で薄れたり強まったり、僕の心を揺さぶる。



彼女… あの小学校で会った彼女は、僕をあの夏に引きずり戻し、いつも淋しそうに微笑んでいる。



彼女の名前は北原みな。


そうだ。


彼のとても愛していた人。


彼女が僕を知らないはずはない。


彼女が最も憎むべき相手は


この僕なのだから。