でも違ってたのかな、と男は罰が悪そうに言った。
 しかし、それよりも、頭の中は混乱していた。

「…かんじゃ?」
「うん」

 かんじゃ。かんじゃの疑い。
 患者の疑いと言うことなのだろうか。
 適当な漢字が、さっぱり思い浮かばなかった。

「…病気では、ないのですが」

 取り敢えず、患者では無いことを否定してみる。先程のはあくまで精神的な体調不良が起きただけだ。

「…」
「…」

 男は口元を抑えて、視線を逸らした。よくよく見れば、肩が小刻みに震えている。

「…ははっ…」
「…」
「君、その…ふはっ…本、気で…っ」

 真剣な顔を作りながら、男は震える声で言う。
 正確には、限界まで笑いを堪えようとしている、声だ。

「言って…、ははっ…もう、ごめん!はははっ」

 もう無理だ、と男は腹を抱えて笑い始めた。

「…あの」
「確かに、“かんじゃ”だけど!はは、あはははっ」
「ちょっと」
「ははっ…もう、警戒した自分がばかみたい、で…ふはは…ちょっ、息できな…ふ、ははっ」
「…」

 男は腹を抱えたまま、暫く笑ったままだった。