「落ち着いた?」

 上からかかる柔らかい声と、背中をさする手が心地よかった。

 答える気力もわかず、こくりと頷けば、よかった、と再び声がおちる。

「少し眠る?」

 その言葉に、僅かに首をふることくらいしか出来ない。
 眠ったら、再び悪夢を見るような気がした。
 夢の中身は、すっかり記憶から跳んでいた。けれど察しはつく。

「…ありがとう、」

 ようやく絞り出した声は随分と酷いものだった。まるで嗄れた老婆のような。

 伏せていた視線をあげ、どういたしまして、と此方に告げる、声を辿った。

 はちみつのような、甘い色が、視界に入った。
 はちみつ色の瞳にうつる自分は、とても酷い顔をしていた。

「…あの、」
「びっくりしたよ。昨夜はちょっと脅かすつもりが、いきなり倒れて。布団に寝かせておいたら、今度は助けて、と叫ぶものだから」

 にっこりとはちみつ色の目を細めて笑うのは、確かに意識を失う寸前に見た笑みだった。