「なんなの、あの女…」
窓の外を睨みつけても、当然三鷹葵が再び姿を現すことはない。
――彼女の目的は一体何なのか。攘夷派の人間と行動を共にしているのなら、多少傷つけても捕縛できたのかもしれない。けれど、松平公が探しているお人そのもの。迂闊に手荒な扱いは出来ない。
「…げほっ…っごほっ…っ!!」
「…沖田さん?!」
思考とまり、一気に現実に引き戻された。
腕で支えていた沖田さんが激しく咳き込む。呼吸音もおかしい。尋常じゃない。
水でも飲ませるべきなのだろうけど、生憎ここは血の海だ。せめて、と背中をさすり、声を掛ける。
「沖田さん、しっかりしてください。今すぐに皆さんを呼んで来ます」
まだ階下にいるだろうし、そろそろ土方さんたちも到着する頃だ。
けれど、沖田さんの手によって制された。なぜ止めるのか、と訴える前に、沖田さんは気迫迫る鋭い目つきでこちらを睨みつけてきた。
「絶対に呼ぶな。すぐに収まる、から…ごほ…っ」
「ですが、」
「頼むから…」
絞り出すような声で、沖田さんは言う。沖田さんの、私の着物を握りしめる手が強まる。
「…分かり、ました」
渋々と頷けば、沖田さんは安心したように頬を緩めた。
沖田さんの言うとおり、咳は10分くらいで収まり、沖田さんは、いつものように元気に振舞って、伝令を聞き駆けつけてきた土方隊の人たちを合流した。
土方さんや近藤さんたちに紛れ、この事件の事後処理について話し合っている沖田さんの姿は、いつもと変わらないように見える。むしろ土方さんのほうが疲れているように見える。
けれど、何か気になる。