「なんだかあなたとは気が合いそうだわ」
「…私は、そうは思わないけど」
「そうかしら?――それで、新撰組のお嬢さん。目的はわたくしを捕まえること?」
「そうよ。だからさっさと捕まって。あなたのせいで、私は新撰組にいるんだから」
「でも案外居心地がよろしいのでしょう?」
のらりくらりと人の質問をかわして、三鷹葵は何を考えているのか分からない笑顔を浮かべる。
彼女はリボルバーを持ってる。焦点を合わすのに時間が掛かるとしても、この近距離で外すことはそうはない。抜刀に自信がない分、こちらが不利だ。その上片手は沖田さんを支えるので手一杯。
刀の柄を握り締めた手に汗が滲む。一瞬でも気を緩めるわけには行かない。
「あなたの目的は何?」
「わたくしの?目的なんてありませんわ。ただ、あの家が、囲われた塀の中が息苦しかっただけ…」
三鷹葵は着物の袖で口元を隠すようにうっすらと笑う。けれど口元が笑んでるだけで、目は全く笑ってない。むしろ、怒りに満ちているよう――。
「わたくしはそろそろ帰りますわ。あなたのお仲間もいらしたようですし」
三鷹葵が目だけを窓の外へ流す。つられて窓の外へ意識をやれば、確かに人の慌しい足音と話し声が近づいてくる。――私のその一瞬の隙を見逃さず、三鷹葵は窓のほうへ走った。
「待てっ!!」
咄嗟に伸ばした手は、三鷹葵の翻る着物に掠ることもなく宙を掴む。そして彼女は広間の窓から、ひらりと飛び降り、暗闇の中へ紛れていった。