「…少し、休めば十分…っ」

 血まみれの床に沖田さんは膝をつく。吐く息も荒い。額に手を当てれば、間違いなく熱がある。人を斬った興奮だとか、場の空気がさせる熱のレベルじゃない。

「沖田さん、気をしっかり保ってください」
「あら、どうなさいました?」
「…っ?!」

 沖田さんに気を削がれ、広間の奥の人間の存在をすっかり忘れていた。
 咄嗟に沖田さんを庇うように身体の位置をずらし、右手を柄へ運ぶ。
 声の方へ顔を上げれば、すでに相手は目の前にいた。思わず息を飲んだのは、急に近くにいたことに驚いただけではない。

「うそ…」

 この場に不似合いな真っ赤な着物に肩に羽織っただけの黒い打掛。手に持っているのは恐らくリボルバー。長い髪を流す、行灯のわずかな光が女の顔を照らす。
 酷く見覚えのある顔。
 そもそも、私が新撰組に留まっている原因。

「みたか、あお、い…?」

 青みがかった黒い髪、日に焼けてない肌、右目の下の泣き黒子、瞳は光に揺れて鈍い青色に。

「わたくしのこと、知ってますの?」

 女はきょとん、としたように首を傾げ、こちらをまじまじと見た途端、破顔した。例えるなら、とっておきのおもちゃを見つけたような子ども。

「あら、あなた、わたくしととてもそっくりなのね!」
「…そうみたい」
「驚いたわ。お父様、ついには替え玉でも作られたの?」
「…違いますけど」
「あら、じゃあ本当に偶然にそっくりなの?」

 不思議なこともあるものね、と三鷹葵は目を細め、楽しそうに笑う。