それから数日、元治元年6月5日。

「――深山、お前は近藤さんについて池田屋だ」

 まさか自分が歴史の一つのターニングポイントに居合わせることになるとは思ってもみなかった。もし私が余計なことをすれば、未来が変わるかもしれない、重大な瞬間。
 時刻も次の日に差し掛かるくらいの頃、あたりは暗く、酒屋や宿屋の明かりが煌々と灯る。覚束無い足元を提灯で照らしながら、近藤さんに付いていく。目的の池田屋へ向かう。

「申し訳ない、深山君。君の手を煩わせるとは、歳も何を考えているのか…」
「最終的に参加すると決めたのは私ですから、お気になさらず」
「そうか、そう言ってもらえると有難い」

 土方さんは最終的に、四国屋に人員を割いた。しかし、戦力的なバランスは同じくらいだろう。四国屋は数で押し、こちらは力で押すような分け方だ。

「…見えてきた。止まろう」
「…見張りが、いるようですねえ」
「こちらが当たりか…?」
「まあ、踏み込まなければ分からんだろう。総司、永倉、藤堂、そして私が踏み込む。皆は周りを囲め。一人足りとも逃がすな。躊躇する必要は無い。斬り捨てろ」

 温和な顔はどこへ行ったのか、近藤さんの目が剣呑に光る。――それも、当然のことだろう。これで成果をあげれば、彼らの念願の、武士への道がまた一歩、近づくのだ。一瞬たりとも気が抜けない。

「…深山くん。此方が無理やり連れてきたような形になってこういうのも気が引けるが、」

 だから、

「くれぐれも、足を引っ張ってくれるな」

 精々そのつもりで私もついていくだけだ。